19歳のソヒを自死に追いやったのは誰か。映画『あしたの少女』は、韓国で実際に起きた衝撃的な実話を、巧みな構成で描いた傑作。実力派のペ・ドゥナと新鋭キム・シウンの演技は、圧巻です。

2023年8月28日月曜日

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『あしたの少女』メイン画像
(C)2023 TWINPLUS PARTNERS INC. & CRANKUP FILM ALL RIGHTS RESERVED.
この作品は、第75回カンヌ国際映画祭批評家週間クロージング作品。ソヒを演じたキム・シウンは、2023年百想芸術大賞映画部門新人演技賞を獲得しています。海外の映画祭での評かも高く、多くの映画祭で上映され、話題を集めています。日本では、2022年の東京フィルメックスで紹介され、審査員特別賞を受賞している。

2016年頃から、韓国ではコールセンターで働いていた少年が行方不明となったり、自死する事件が発生。また、地下鉄のスクリーンドア整備中の19歳の実習生が死亡する事件も起きた(「クウィ駅事件」)。この作品は、2017年に全州(チョンジュ)市で実際に起きた、大手通信会社のコールセンターの実習生が、わずか3か月で自死した事件をベースに製作されている。
『あしたの少女』場面写真1
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高校生のソヒ(キム・シウン)は、担任教師から大手通信会社の下請けのコールセンター運営会社を紹介され、実習生として働き始める。しかし、会社は顧客の解約を阻止するために従業員同士の競争をあおり、契約書で保証された成果給も支払おうとしなかった。そんなある日、指導役の若い男性チーム長が自殺したことにショックを受けたソヒは、自らも孤立して神経をすり減らしていく。やがて、凍てつく真冬の貯水池でソヒの遺体が発見され、捜査を担当する刑事・ユジン(ペ・ドゥナ)は、彼女を自死へと追いやった会社の労働環境を調べ、いくつもの根深い問題をはらんだ真実に迫っていくのだった…【公式サイトより転載】

加害者は誰なのか

主人公ソヒは、理不尽な契約と会社からのハラスメントを受けながら、必死であがき、苦しんでいるのだが、その周りを取りまく人々、特に、会社の上司、教師、両親など、彼女を助けるべき存在、助けられる存在が、誰一人として、彼女を理解し、救いとはならない。むしろ、自分の保身や自分本位の理由から、彼女へ圧力をかけるプレッシャーとなる。加えて、作品の後半のシーンで、ペ・ドゥナ演じる刑事が捜査を進めていく中で、周囲の無関心さ、責任逃れが映像で表現されるシーンが用意されているので、ぜひ観てほしい。そのシーンを観た時、こちら側にも問われている気がして、心が苦しくなった。
『あしたの少女』場面写真2
(C)2023 TWINPLUS PARTNERS INC. & CRANKUP FILM ALL RIGHTS RESERVED.

冷静な刃、ペ・ドゥナの怒り

この作品は、2部構成になっているのが特徴的で、前半のソヒの悲劇に向かう物語に対して、後半は、刑事ユジンが事件の背景を追う姿が描かれている。ユジンの視線は、とある理由から冷静で客観的、それゆえに事件の関係者には、その言葉が鋭く刃となって突き刺さる。ソヒの追体験をするような捜査の中で、彼女の眼の中に蓄積されてく「怒り」の感情は、私たちの心に共感を呼ぶもので、言葉によらず、その演技のみで伝えるペ・ドゥナという俳優は、素晴らしい。
『あしたの少女』場面写真3
(C)2023 TWINPLUS PARTNERS INC. & CRANKUP FILM ALL RIGHTS RESERVED.

同じテーマでも描き方が変化

この作品の元となった実習生の労働者搾取、ハラスメントの問題は、韓国国内でも大きく取り上げられていたこともあり、別の監督も作品として取り組んでいる。『若者の光』(英題:Light for the youth)がそれで、シン・スウォン監督(『オマージュ』)が製作し、第24回釜山国際映画祭パノラマ部門で紹介されている。
『若者の光』ポスター画像

日本では、2020年のあいち国際女性映画祭の国際招待作品として紹介されましたが、日本配給はされていなくて残念。以下に、公開当時の監督インタビューを置いておきます。いつか、何かの機会でふたたび日本で観られることを期待しています。映画祭って、貴重ですね。

『若者の光』Light for the youth【感想・レビュー】ネタバレ少し含みます。

『あしたの少女』ポスター画像
作品情報
監督・脚本:チョン・ジュリ『私の少女』
出演:ペ・ドゥナ、キム・シウン、チョン・フェリン、カン・ヒョンオ、パク・ウヨン、チョン・スハ、シム・ヒソプ、チェ・ヒジン
2022/韓国/5.1ch/134分/DCP
公式サイト:https://ashitanoshojo.com/
8月25日(金)より、シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国公開

(Life with movies 編集部:藤井幹也

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