第24回釜山国際映画祭 パノラマ部門
スタッフ staff
監督:シン・スウォン Su-won Shin出演 Cast
キム・ホジョン Kim Ho-jung:セヨン Lee Se-yeonユン・チャニョン Yoon Chan-young:ジュン
チョン・ハダム Jeong Ha-dam:ミレ
あらすじ
コールセンターのセンター長セヨンは、19歳の実習生ジュンが遺書を残して行方不明になり、危機に直面する。別の会社で実習中のセヨンの娘ミレは、正社員になるための最終面接までこぎつけるが不採用となる。ある日、セヨンはジュンからの奇妙なメッセージを受け取る。(あいち国際女性映画祭公式HPより)
9月3日(水曜)上映後(リモート)Q&Aより
シン・スウォン監督(以下、監督)※写真左
聞き手:木全純治映画祭ディレクター(シネマスコーレ支配人)
Q(木全):韓国はクレジット大国ともいわれていますが、この題材を取り上げようと考えた理由を教えてください。
A(監督):数年前から19歳の高校生が自殺するケースが増え、TVでも取り上げられていました。また、2016年には、コールセンターで働いていた少年が行方不明になる事件や、河で発見される事件が起きていました。私は、なぜ、もうすぐ20歳を迎える若者が死を選ばなければならなかったのか、と考えていました。身近にも、今回のようなコールセンターで実習をしている若者がいて、取材をしました。
※2016年、のちに「クウィ駅事件」とも呼ばれる事故が発生。当時19歳の実習生が地下鉄駅のホームドア修理作業中にホームドアと列車に挟まれて死亡。このニュースがこのシナリオを書く契機となったと、釜山国際映画祭では答えている。
Q(木全):制作予算と期間はどこくらいかかりましたか。
A(監督):韓国では、出資・配給するメジャーがいて、興味を示している会社もありましたが、内容が暗めということもあり、制作にまでは至りませんでした。一方、韓国にはインディーズ映画を支援する組織(KOFIC(韓国映画振興委員会))があり、脚本を応募することで、助成金をいただくことができました。不足した分は、監督とプロデューサーで出資して、約4,000万で制作しています。制作期間は、約22日で制作し、キャストも協力してくれました。
Q(木全):製作費は、リクープ(回収)できましたか?
A(監督):実は、この作品は、韓国国内では、まだ上映されていません。2020年11月公開予定です。新型コロナの影響で、まだ映画館が正常化していないので、不安に思っています。ただ、釜山国際映画祭2019では、多くの若者に共感を得て、好意的な反応がありました。
Q(木全):キャスティングは、どのように決めたのでしょうか。
A(監督):母親役のキム・ホジョンは、以前に印象的な演技を観たことがあり、『Madonna』(第68回カンヌ国際映画祭ある視点部門)で、社長役を演じていただき、とても素晴らしかったので、今回のキャスティングとなりました。ジュン役のユン・チャニョンは、実年齢も19歳。子役出身の俳優で、ドラマ 「ママ~最後の贈りもの~」の演技が印象的でした。一度会わせていただいた時の印象がとても良く、キャスティングさせていただきました。ネットフリックスの作品でも活躍されているそうですね。
Q(木全):撮影で一番苦労されたことはなんでしょうか?
A(監督):韓国では、コールセンターが多い、ヨイド(汝矣島)という地区があります。窓の外は、ヨイド(汝矣島)からの風景として撮影したのですが、内容が(コールセンターにとって)印象の良い作品ではなかったため、コールセンターを運営する会社の協力を得られませんでした。仕方なく、友人の事務所を借りて、半分だけPC等のセットを組んで撮影しました。ただ、その事務所も、撮影の翌日には会議の予定があり、すみやかに元に戻さなければならず、また、時間内に撮影を終えてしまう必要がありました。撮影が、夜中の2時、3時に及び、かなりスタッフに負担をかけてしまったことが辛かったです。
Q(木全):監督のキャリアについて教えてください。10年程度、教師をされたのち、映画学校へ入学されたとお聞きしましたが、なぜでしょうか。
A(監督):その頃は、物事が良く分かっていなかったから(笑)。中学校の教師をしていた32歳当時、人生にマンネリ感を感じていて、私の人生は面白いのか、と考えていました。その頃、小説を書きたくて、映画学校に入ると、休職ができるという制度になっていたので、シナリオを書くコースに入りました。しかし、映画学校では、映画を制作する際の役割分担があり、監督をすることになり、創ることが面白くなっていきました。
Q(木全):次回作の予定は、ありますか。
A(監督):東京国際映画祭提携企画「コリアン・シネマ・ウィーク 2011」~ 韓国女性映画監督作品ショーケース ~、で制作したドキュメンタリー『女子万歳(Women with Movie Camera )』のオマージュ的な作品を制作する準備をしています。『Reinbou』(2010)の第2弾的な位置づけになると思います。今、まさに、ロケハンや準備に入っているところで、来週くらいには、クランクインの予定です。完成した時は、また、この映画祭で上映してほしいですね。
若者の「光」=「未来」とは
正社員になるため、安価な労働者(実習生)として働くジュンにとって、「光」とは何なのか。カメラマン志望のジュンにとって、「光」=「時間を閉じ込める」存在だが、コールセンターに閉じ込められているのは、自分自身。一方、センター長であるセヨンも、支店を率いる立場であるが、いつでも解雇される不安定な生活で、「娘」という自分にとっての、光であり、未来である存在には、自分のような非正規社員にはなって欲しくないと考えている。
そんな2人にとっての、光へ向かう、未来を掴むためには、どうすればいいのか。社会構造が変わらない限り、受け入れるしかないのか。韓国も日本も共通する非正規雇用や低賃金の問題には、出口が見えず、映画の中でも解決の糸口はみえないことが、観終わったあとも、心に解放感を与えない。
作品全体として
社会派の良作を生み出し続ける韓国映画界から、新しいパターンの作品が出てきたかという印象の本作。実際に起きたセンセーショナルな事件をベースにした作品が多い中、契機となる事件があるものの、描かれているのは、特定の事件ではなく、普遍性がある社会構造の闇が映像化されている。特定の事件をなぞっていない分だけドラマ性に欠ける印象が残る一方で、誰しも身近に起きうる、いや、今起きている印象が残り、心の奥に何かを残し続けるような、溶け込むような印象を受ける、静かな怖さがある。ドキュメンタリーとも、モキュメンタリーとも違うのに、いい意味で、嫌なリアリティがある。そんな作品。
あいち国際女性映画祭『若者の光』紹介ページ
https://www.aiwff.com/2020/filmslist/overseas_special_offers/filmwork01
『若者の光』Light for the youth(IMDB)
https://www.imdb.com/title/tt13830532/
(Life with movies 編集部:藤井幹也)
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