(C)2023, Mystery Pictures, ALL RIGHTS RESERVED |
この作品は、第27回富川ファンタスティック映画祭で話題となり、あいち国際女性映画祭2023の海外招待作品として上映された作品。映画祭会場では、監督や主演のおふたりを迎え、観客とのQ&Aが活発に行われました。
はたして、親は子の心をどこまで理解できているのか
2023年、親子の理解を描いた作品が多く上映されている。たとえば、是枝裕和監督の『怪物』、ルーカス・ドン監督の『CLOSE クロース』等、主題はそれぞれ異なりますが、物語の背景や鍵として描かれているのは、親には理解できない、子供たちの心。
あいち国際映画祭で上映された韓国映画『毒親』(ドクチン)もまた、子どもに激しい愛情を注ぐ母親と一身に浴びる娘が描かれている。韓国の新鋭キム・スイン監督が描く、現代韓国の母娘の姿とは。なぜ、この作品が企画されたのか。現代日本社会が抱える親と子の課題。映画を通して、他の国の社会を知り、自分達の抱える社会課題を再認識する。
『毒親(ドクチン)』
監督:キム・スイン
出演:チャン・ソヒ、カン・アンナ、チェ・ソユン
2022年/韓国/104分
今後の『毒親(ドクチン)』上映情報
コリアン・シネマ・ウィーク2023
日時:2023年10月18日(水)
<オフライン上映>
会場:駐日韓国文化院 ハンマダンホール(19:00~(開場18:30)
<オンライン上映>
視聴可能時間:10月18日(水)18:00~22:00
駐日韓国文化院公式ホームページ
https://www.koreanculture.jp/info_oubo_view.php?number=882
※募集は、終了しました。
あらすじある日、湖畔に止められた車から女子高生・ユリを含む3人の死体が発見される。学校で模範とされた彼女がなぜ死んだのか。警察は自殺と断定するが、ユリの母親ヘヨンはそれを認めず、さらにユリの友人イェナと担任教師のギボムが娘の殺人に関わったと主張し2人を告訴する。以来、捜査は難航するが、次第に意外な事実が明らかになっていく。【あいち国際女性映画祭2023公式ホームページより転載】
2023年9月16日、あいち国際女性映画祭2023において、作品上映後、キム・スイン監督、チャン・ソヒ(母親ヘヨン役)、カン・アンナ(娘ユリ役)、イ・ウンギョンプロデューサーによるトークイベントが開催されました。その中で行われたQ&Aより、一部を抜粋してご紹介します。
※Q&Aには、作品の内容に踏み込んだものが含まれていますので、ご注意ください。
右から、キム・スイン監督、主演のチャン・ソヒ、カン・アンナ。写真提供:あいち国際女性映画祭事務局 |
監督:キム・スイン(以下、キム監督)
出演:チャン・ソヒ(母親役)、カン・アンナ(娘役)
プロデューサー:イ・ウンギョン
聞き手:木全 純治(あいち国際女性映画祭2023ディレクター)(以下、木全)
Q(木全):この映画を企画した理由をお聞かせください。
A(イ・ウンギョンP):高校3年生を教えている教師の友人から、校内で学生や親から相談を受けるが、親子関係の問題が多いという話を聞きました。また、韓国国内では、青少年の自殺が多いのですが、その一番の原因は「親子関係」だという話も。私自身は、子育てをしていないので、教育に関心のある立場ではなかったのですが、それらの話を聞いて、深刻な問題ではないかと考えたことが、この作品のきっかけになりました。
Q(木全):キム監督は、監督は初めてとなると思いますが、依頼された理由を教えてください。
A(イ・ウンギョンP):キム監督は、元々、KOFIC(映画振興委員会:Korean Film Council)のシナリオコンテストで優勝していて、若手の有望な脚本家として知られていました。受賞された脚本は、とても精度が高く、脚本家として注目していました。なので、『毒親』に関しては、まず、脚本家として依頼しました。結果、素晴らしい脚本が出来上がり、また、キム監督も、監督志望である、という話をお聞きしたので、抜擢しました。
Q(木全):(キム監督へ)オファーを受けて、いかがでしたでしょうか。
A(キム監督):私は、長い間、脚本家としての活動してきました。脚本家は、企画者の企画意図に沿ったものが書けるのかどうかが大切です。今回は、プロデューサーの企画だったので、その企画意図を考えながら、何を私がピックアップして、映画にしたらよいのかを考えました。また、その過程で演出もすることになったので、どれだけ私の物語にできるのかを考えました。この『毒親』という素材は、私なりの物語が展開できるではないか、という自信もあったので喜んで監督をお受けしました。
写真提供:あいち国際女性映画祭事務局 |
Q(木全):(チャン・ソヒ、カン・アンナの)2人をキャスティングした理由を教えてください。
A(キム監督):『毒親』は、母親のヘヨン役がとても大切だったので、先にヘヨン役を決めてから、娘役や他のキャストを決めていこうという方針を、プリプロダクションで決めたので、最初にヘヨン役を決めました。チャン・ソヒをキャスティングする理由は、たくさんありましたが、その中から2つをご紹介します。ひとつは、この映画を創る時に、母親は「毒親」であるのですが、ひどい、悪役的なイメージの方をキャスティングしたくは、ありませんでした。そういう意味で、チャン・ソヒさんは、優雅で優しいイメージを持っていますので、演出意図にぴったりでした。もうひとつは、チャン・ソヒさんは、この話が好きかわからないが(笑)韓国国内では「復讐劇の女王」というふたつ名が付くくらい、ドラマで復讐する役を演じています。この作品も、ある意味「復讐劇」だと考えていました。ただ、それは、他者への復讐ではなく、自分自身への復讐。今までの復讐劇とは、レイヤーの異なる物語なので、新しいチャン・ソヒさんが観られるのではないか、という期待もあって、オファーさせていただきました。
Q(木全):(チャン・ソヒへ)11歳のデビューからキャリアの長いチャン・ソヒさん。韓国ドラマにも、多数出演されていますが、映画は、この『毒親』で6年ぶりとなります。オファーを受けた時の感想などを聞かせてください。
A(チャン・ソヒ):韓国国内ではドラマの出演が多いですが、11歳のデビューは映画でした。映画とドラマをバランス良く出演したかったのですが、ドラマのオファーが多く寄せられたので、結果的に多くのドラマ作品に出演しています。時々、映画出演したい、とスタッフへ伝えていたので、5,6年に1度ぐらいのペースで映画には、出演しています。6年ぶりに『毒親』のオファーが来た時、母親役を演じるのであれば、一般的な母親像ではなく、個性的な役を演じたい、と考えていたので、今回のオファーを受けることにしました。最初に脚本を読んだ時には、時間を忘れて、一気に最後まで読んでしまいましたので、きっと映画作品になっても、お客様に楽しんでいただけるのではないか、と考えていました。
Q(木全):(カン・アンナへ)この作品が、映画初出演、初主演ということですが、出演された感想をお聞かせください。
A(カン・アンナ):先輩や監督が、現場では優しくしてくれたので、初出演でしたが、あまり緊張せず、楽しく撮影に臨むことができました。大変だった印象より、楽しかった印象の方が多く残っています。俳優としては新人なのですが、今回の役どころは、いろいろみせられる役柄だったので、凄く欲が出て、ユリをどのように完璧に演じられるか、考えながら、演じさせていただきました。
写真提供:あいち国際女性映画祭事務局 |
Q(一般):(キム監督へ)少し前に、同じ「毒親」をテーマにした『同じ下着を着るふたりの女』を観ました。日本では「毒親」が社会問題と考えられていて、多くの小説や映画が作られています。韓国では、どのような認識になっていますか?
A(キム監督):『同じ下着を着るふたりの女』は、忙しくて、残念ながら、まだ観ることが出来ていませんが、韓国国内では話題になっていました。作品を比較しながら、お話できれば、よかったのですが、後日、鑑賞して『毒親』との違いなど考えてみたいと思います。「毒親」という言葉は、韓国では、まだ新しい言葉。プリプロの時、周りの人から「今何を手掛けてるの?」と聞かれ、『毒親』と答えると、何?となっていました。漢字をみたら、すぐ理解できると思いますが、発音だけ聞いても、なじみがない言葉です。「毒針」と発音が近いので、勘違いされることもありました。ただ、それが魅力ではないかと考えています。タイトルを聞いた時、驚きがあり、インパクトがあるので、少し変わった印象を与えることで、作品に興味を持っていただけるのではないか、期待しています。ただ、「毒親」という言葉の持つ特別さによって、素材主義に陥ることがないように、「本当の物語」が入っている作品となるように挑みました。
親子関係、家族の問題は、社会的にも、文化的にも、歴史的にも、いろんな文脈があると考えています。私の母は、少し年配で戦争を経験した世代。終戦直後は、韓国内は貧しかったこともあり、子供には自分より豊かな生活をして欲しいという希望が強かった世代なので、どうしても子どもへの注文が多いですね。一番の理想は、子供を独立させる、というところにあると考えますが、それがなかなかできなかった時代。私も「毒親」世代の影響下にあったのかなと思います。2000年代、2010年代は、「毒親」へ違う想いがあるかもしれませんが、この作品は、私の同時代的に描きました。
Q:(カン・アンナへ)今朝、娘に『毒親』という映画を観ると伝えたら、ぜひ観てきて!と言われるぐらいいい関係を築いていますが、自分自身も、一人の娘として、一人の娘の母として、深く考えさせられる作品でした。特に最後のユリさんのセリフに知らない間に涙していましたが、あのセリフを話す時、どのような気持だったのでしょうか。
A(カン・アンナ):韓国の富川ファンタスティック映画祭で上映した時も、ラストシーンについて、コメントが多かったです。私も、あのセリフがこの作品のハイライトだと思っていて、撮影する前に、どのように演じればよいかをとても考えました。週末以外は、監督やプロデューサーと一緒にいる時間が多く、役作りについても話し合っていました。「お母さんのお母さんになりたい」というセリフをどうしたら良いのか。監督からは、なにげなく、悲しくない表情で言った方が、観客側からは悲しく受け止められるのではないか、と言われました。私は、ユリの死について、本当に自殺したかったのか、あるいは、後悔しているのではないか、と考えたりもしましたが、最後のセリフを演じながら、これは、母を深く愛し、それゆえに母を替えることもできず、また母も変わらないと悟ったことで、自分自身の死しか解決できないと考えたのでは、と感じていました。
写真提供:あいち国際女性映画祭事務局 |
Q:(キム監督へ)印象に残った場面があります。それは、レストランにいるシーン。ユリの担任の教師も、自分の「毒親」とうまくいっておらず、ただ、担任教師は父親との関係を清算することに成功する。あれはユリの自殺との対比として描かれていると感じました。もし、ユリが担任のように振る舞うことができれば、悲劇は起きなかったのでは、と切なくなりました。あのシーンの意図を教えてください。
A(キム監督):鋭い分析に驚いています。ご指摘のとおりの意図です。ユリも担任教師も、同じレストランに同時にいる設定です。もしユリも担任教師のように振る舞うことができたら、違う人生が待っていたかもしれないと考えていました。また、別のインタビューでも答えましたが、もし、私がユリの立場なら、親と縁を切って、家を出て独立すると思います(笑)。ユリは、私が創作したキャラクターで、この作品の中では、あのような選択をするしかない人物として描いています。
Q:(チャン・ソヒへ)今回の役どころは、とても心に負担のかかるものだと思いますが、役作りの基盤としたものはありますか。
A(チャン・ソヒへ):私は独身で、子育ての経験もないので、母親を演じるには、想像力を働かせるしかありませんでした。俳優は他人の人生を演じますが、そのためには、想像力と観察力が必要です。私は、家族の中で甘やかされて育ったので、私の経験ではなく、友人に多くの話を聴きました。また、母にも話を聴きました。母の世代でも、子どもを自分の所有物だと考え、代理満足というか、子どもにこうなって欲しい、私とは違う人生を歩んで欲しい、「私の代わりに」と考える親が多かったそうです。ヘヨンも、そうだったのかもしれません。簡単な役ではありませんでしたが、多くの方の助けもあり、演じることができました。
『毒親(ドクチン)』
作品情報
監督:キム・スイン
出演:チャン・ソヒ、カン・アンナ、チェ・ソユン
2022年/韓国/104分
あいち国際女性映画祭2023作品紹介ページhttps://www.aiwff.com/2023/films/overseas_special_offers/348/
『毒親(ドクチン)』Toxic Parents(IMDB)https://www.imdb.com/title/tt29224881/
0 件のコメント:
コメントを投稿