『ヨーロッパ新世紀』トランシルヴァニアの小さな村で起こる出来事は、世界の縮図。対立、混沌と、押し寄せるグローバリゼーションがもたらすものは。カンヌ国際映画祭コンペ作品

2023年10月15日日曜日

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『ヨーロッパ新世紀』メイン画像
(C)Mobra Films-Why Not Productions-FilmGate Films-Film I Vest-France 3 Cinema 2022

 この作品は、2022年・第75回カンヌ国際映画祭コンペティションへ選出された作品。監督のクリスティアン・ムンジウは、『4ヶ月、3週と2日』第60回カンヌ国際映画祭のパルムドールを受賞後、『汚れなき祈り』で再び第65回カンヌ国際映画祭で脚本賞と女優賞をW受賞、『エリザのために』第65回カンヌ国際映画祭監督賞を受賞したルーマニアの巨星です。

『ヨーロッパ新世紀』サブ画像1
(C)Mobra Films-Why Not Productions-FilmGate Films-Film I Vest-France 3 Cinema 2022

作品の舞台は、ブラム・ストーカーの『ドラキュラ』の舞台として知られるルーマニア・トランシルヴァニア地方。ヨーロッパの東に位置し、戦争や占領の歴史的背景の中で、ルーマニア人、ハンガリー人、ドイツ人、ロマ人など、さまざまな人々が生活し、また、それに伴い、言語、宗教、文化が混じりあっている。

そんな東ヨーロッパの小さな村で起きる物語は、小さな対立、小さな差別。しかし、はたして小さな物語なのか。今、世界で起きている戦争や対立は、どのような理由で生じているのか。日本国内で、日々、問題となっている事件は、どんな理由が原因なのか。

『ヨーロッパ新世紀』場面写真2
(C)Mobra Films-Why Not Productions-FilmGate Films-Film I Vest-France 3 Cinema 2022

この作品を観ているうちに、実はこの作品で描かれていることが、自分たちのすぐそばにあることに気づいた時、戦慄することになる。

※このあとの作品レビューには、一部、内容に踏み込んだものが含まれていますので、ご注意ください。

あらすじ 
トランシルヴァニア地方の村。出稼ぎ先のドイツで暴力沙汰を起こしたマティアスが、この地に戻ってくる。しかし妻との関係は冷めきっており、森でのある事をきっかけに口がきけなくなった息子、衰弱した父への接し方にも迷う彼は、元恋人のシーラに心の安らぎを求める。ところがシーラが責任者を務める地元のパン工場が、アジアからの外国人労働者を迎え入れたことをきっかけに、よそ者を異端視した村人たちとの間に不穏な空気が流れ出す。やがて、そのささいな諍いは村全体を揺るがす激しい対立へと発展し、マティアスやその家族、シーラの人生をも一変させていく…。【公式サイトより転載】

『ヨーロッパ新世紀』場面写真3
(C)Mobra Films-Why Not Productions-FilmGate Films-Film I Vest-France 3 Cinema 2022

言語とアイデンティティ

この作品の中では、ルーマニア語、ハンガリー語、ドイツ語に加えて、英語、フランス語が飛び交い、その中にアジアからの労働者としてスリランカ人と言葉が登場する。この作品の字幕は、ルーマニア語が白色、ハンガリー語が黄色、それ以外がピンク色で表示する特徴的な演出がなされている。すべての人がすべての言語を理解しているわけでもないが、理解しないわけでもない。会話する相手や場面により、言葉を選び、また、強制されています。では、その人物は、なぜその言語で話すのか。どの言語を使う時、アイデンティティを主張しているのか。場面、場面で細かく変わる言語の種類を追うだけでも、この物語のテーマを追いかける鍵となります。

『ヨーロッパ新世紀』場面写真4
(C)Mobra Films-Why Not Productions-FilmGate Films-Film I Vest-France 3 Cinema 2022

この作品の原題は『R.M.N.』

R.M.N.は、Rezonanta Magnetica Nuclearaの略で、英語ではNMR( Nuclear Magnetic Resonance/核磁気共鳴)を指します。日本語では核磁気共鳴を応用した画像撮影法(MRI)が、知られていて、本編中にも、このMRI撮影による診断のシーンが登場する。では、この物語における「病変」は何なのでしょうか。「病変」は明らかになるのでしょうか。

『ヨーロッパ新世紀』場面写真5
(C)Mobra Films-Why Not Productions-FilmGate Films-Film I Vest-France 3 Cinema 2022

動物の意味するものは何か

この作品の舞台となるトランシルヴァニアは、ヨーロッパでも有数の野生動物の生息地。作中でも、羊、熊などが人々の生活のなかで登場し、そして、それらには、それぞれに意味が持たされている。子供たちが演じるルーマニア民謡「ミオリッツア」では羊たちが登場し、村の祭事では、熊の皮を被った村人が練り歩く。自然と共生しつつ、時には、人々の脅威ともなる自然と動物たち。

村人たちは、彼らと「共生」している。

では、グローバリゼーションが拡大する中で、この村の人々は、世界と「共生」することができるのか。「脅威」となる存在は何なのか。マティアスは、どこへたどり着くのか。

さて、この作品に登場するもので、「意味」を持たないものはないというぐらい、さまざまな仕掛けが散りばめられていますが、その「意味」を読み解くことができるのか。

一度観ただけでは、この作品の全容を理解するのは、難しいかもしれない。東ヨーロッパの森のように深く、複雑に絡み合った人、言語、アイデンティティ。何が「正義」で、何が「悪」か、などという短絡的なものではない。それは、私たちの生活と同じだろう。

『ヨーロッパ新世紀』ポスター

『ヨーロッパ新世紀』

公式ホームページ
https://rmn.lespros.co.jp/

作品情報
監督:脚本:クリスティアン・ムンジウ
出演:マリン・グリゴーレ、エディット・スターテ、マクリーナ・バルラデアヌ
原題:R.M.N.
2022年/ルーマニア・フランス・ベルギー/カラー/シネスコ/127分/5.1ch
2023年10月14日(土)よりユーロスペース、第七藝術劇場、シネマート心斎橋、京都シネマ、元町映画館ほかにて全国順次公開

『ヨーロッパ新世紀』R.M.N.(IMDB)
https://www.imdb.com/title/tt18550182/

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