『オマージュ』Hommage【感想・レビュー】ネタバレ少し含みます。

2021年11月1日月曜日

映画祭 東京国際映画祭

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第34回 東京国際映画祭 コンペティション

スタッフ staff

監督:シン・スウォン Shin Su-won

参考:監督過去作品
『若者の光』Light for the youth【感想・レビュー】
https://www.lifewithmovies.com/2020/09/Lightfortheyouth.html

『ガラスの庭園』Glass Garden【配信サイト:おうちでシネマート】
https://www.cinemart.co.jp/vod/lineup/detail/000639.html

出演 Cast

イ・ジョンウン Lee Jung-eun:ジワン
クォン・ヘヒョ Kwon Hae-hyo
タン・ジュンサン Tang Jun-sang

作品解説

仕事に行き詰った女性映画監督ジワンは、フィルム・アーカイブから映画修復の依頼を受ける。それは韓国の女性映画監督が1960年代に撮った『女判事』を修復する仕事だった。劇場公開用の35mmフィルムを元にした素材は一部音声が欠け、また検閲によって一部のシーンが欠落していた。その欠落した素材を探す作業は、韓国の女性映画監督がたどった苦難の道のりを明らかにする(第33回東京国際映画祭公式プログラムより抜粋)

10月31日(土曜)「TIFFトークサロン」オンラインQ&Aより抜粋

シン・スウォン監督(以下、監督)
聞き手:市山尚三 東京国際映画祭プログラミング・ディレクター(以下、市山)

Q(市山):この作品、非常に素晴らしい作品で、コンペティション(competition)に選ばさせていただきました。監督は、『虹』という作品で(※『虹』は、2010年第23回東京国際映画祭アジアの風部門最優秀アジア映画賞を受賞している)、本映画祭としてはこの作品で2作品目の上映ということになります。
A(監督):感慨深いです。10年ほど前、『虹』という作品で受賞させていただいたのに続き、今年、選出いただき、日本には伺えませんが、ご招待いただきまして、ありがとうございます。

Q(市山):物語の前半に監督のアーカイブ(archive)へ行く場面があり、そこで『未亡人』という作品を監督したパク・ナムク監督が、韓国で最初の女性映画監督であるとの説明がありました。その次に『女判事』を監督したホン・ウノン監督の紹介がありました。なぜ、こういった初期の女性映画監督に注目されたのでしょうか。どうやって、これらの女性映画監督を発見されたのでしょうか。
A(監督):2010年に『虹』を撮ったあと、翌年にTVのドキュメンタリー(documentary)を撮らないかという話をいただきました。その内容が「カメラを持った女性たち」というもので、45分の作品でした。その取材で資料調査を行うことになり、1960年代に韓国にも女性監督がいたことを知りました。私は、それまで、彼女たちを知りませんでしたが、取材をしたことにより、いつかこれを映画にしたいと思うようになりました。韓国の最初の女性監督というのは、パク・ナムク監督という方で『未亡人』という作品を撮られていますが、作品はその1本だけ。2人目の女性監督がホン・ウノン監督で、パク・ナムク監督の友人。彼女は『女判事』という作品のほかにも、2本作品を撮っていて、合計3作品を製作しています。ただ、私が取材に入った時には、亡くなられていて取材できませんでした。ただ、娘さんにお話しを聴く機会をいただき、当時、編集をされていた方にも取材することができました。一方で、製作された3作品をすべて観てみたいと考えていたのですが、3本ともフィルム(film)が残っていませんでした。パク・ナムク監督にしても、ホン・ウノン監督にしても、1960年代に女性が映画監督をすることは大変なことだったと思います。当時は保守的な環境で、一般の方とは違った形で、熾烈な闘いをしていたと思います。まず、自分と闘い、そして、他者の視線との闘いをしながら、彼女たちは生き残ってきました。そのように、ホン・ウノン監督の取材をする中で過去の事実を知ることになり、当時の皆さんが抱えていた悩みも知ることになり、私が映画を撮る中で抱えている様々な悩みと重なることもありました。映画を製作する中で、辛い時や疲れた時に、当時の女性監督のことを思い出します。お会いした編集の方は、かなりのご高齢の方でしたが、取材後、お別れする時に私の手を握り「昔は本当に映画を作るのが辛かった。女性として生き残るのは大変だった。だから、あなたはこれからも生き残り、映画を創って欲しい」と、皴のある手で、私の手を握りながら、言われました。そのぬくもりを時々、思い出しています。2019年に『オマージュ』の脚本を書き始めた頃『女判事』のフィルムが発見されました。数年前に発見された方が、映像資料院に寄贈され、この作品の中でも使えることになりました。そのような経過で『女判事』と出会い、当時の女性監督を知り、現在の私の姿とひとつの形にして、映画を創りました。

Q(市山):ということは『女判事』の映像が作品の中に登場しますが、すべて最近発見された映像を使用したということでしょうか。
A(監督):基本はそのとおりですが、劇中で、ジワンが失われた部分を発見したとされる部分のみ、新たに撮影しています。それ以外は、映像資料院の協力で、原本を使用させていただきました。

Q(市山):『女判事』にも(検閲で実際にカット(cut)された場面が存在し)カットされた部分が見つかっていないということがあるのでしょうか。創作でしょうか。
A(監督):私が脚本を書き始めた時には、失われていた部分はないと考えていました。ところが、脚本の内容と映像を照らし合わせてみると、どうもおかしいと。撮影を控えている時に、30分ぐらいの分量がまだ発見されていないということがわかりました。当時のロールにすると一巻分ぐらいです。未だ発見されていないそうです。

Q(市山):日本でもフィルムを復元しようとした時に、完全版がないという場合があるのですが、韓国の50-60年代の作品でもよくあることなのでしょうか。特に『女判事』がなかったということなのでしょうか。
A(監督):私の知っている限りでは、『女判事』だけではなく、当時のフィルムが残っていないことも多いようです。私自身は復元作業に携わったことはなく、作品の中には創作として(復元場面を)挿入しました。以前、私が取材していた時に、ホン・ウノン監督の3作品は発見されていませんでしたし、当時は、映画の上映が終わると、フィルムを溶かしてレコード盤にしたり、帽子の鍔に使っていたという話をお聞きしました。

以下、観客からの質問スタート

Q(一般):古い映画館が登場しますが、原州市(ウォンジュ市)に実在する映画館でしょうか。
A(監督):ご質問のとおり、作品の舞台は原州市にあるアカデミー劇場です。古い映画館を探すのに、とても苦労しました。韓国では、現在、ほとんどの映画館がシネコン(cinema complex)になっていますし、外観は昔風でも、中に入ると映写室が狭かったり、リモーテリング(Remoteization)されていて、撮影に適さなかったです。そんな時に、あるBlogでアカデミー劇場の存在を知り、関係者の方にお会いすることができたので、使うことができました。すでに、映画館としては廃業されていましたが、管理者がおられて、文化財として保存することが決定していました。劇場の関係者の方は、この企画を評価いただき、所有者の息子さんが建物内部での撮影を許可してくださいました。初めて映画館に入った時に、雰囲気が良くて、とても気に入りました。ただ、35mmのフィルムを映写する機材がなかったので、美術staffと予算を組んで、35mmを回せるような機械を創作。劇場のもつ、60年代の雰囲気を生かすことができました。作中には天井に穴が開いている設定がありましたが、あれは撮影のために、照明を使用して創作したもので、実際には開いていません。アカデミー劇場へ行った時に、劇場主の方が扉を開けてくださったドアから光が差し込み、スクリーンにいろんなものが映し出されました。偶然、車が通りすぎる形が映り込み、これは映画的だ、と感じました。これも、ロケハン(Location hunting)した時に得た着想です。映画館での撮影期間は3日間ぐらいですが、本当に素晴らしい場所で撮影が出来たと思います。あの映画館は売却される危機にあったそうですが、保存することが決まったと、去年、嬉しい連絡がありました。本当に劇場の方には、たくさん助けていただきました。

Q(市山):作品に登場する古い映画館は、海外の成人向け映画を上映・営業していますが、日本にも、35mm上映できる、成人向け映画を上映している映画館があります。現在の韓国でも、劇中と同様に古い映画館で成人向け映画を上映しているのでしょうか。それとも、監督の創作なのでしょうか。
A(監督):実は韓国でも成人映画というのは、以前は上映する映画館が決まっていた。同時上映館と呼ばれていた。今は、私が知る範囲では、もう存在しない。映画の中の設定には理由があり、私がTVの特番で取材していた当時、映画館の映像が必要で探していた。その時にみつけた廃業直前の映画館は、元々、アート(art)系映画や商業映画を上映していたのですが、閉館して10年から20年経過し、撤去直前のもの。ただ、取り壊しまでの間、お金を稼ぐために、成人向け映画を上映していた。その事実を知って、これはアイロニー(irony)だなと。ちなみに作品の中で上映されているのは、韓国映画『愛麻(エマ)夫人』(1982)です。成人映画ではなく商業映画で、当時、興行成績も良かったチョン・イニョプ監督作品です。使用許諾が必要で、監督へ作品の趣旨を連絡したところ、快諾いただきました。なので、成人映画専門の映画館は、もうないのではないかと思います。

Q(一般):イ・ジョンウンを主役にキャスティングした理由を教えてください。
A(監督):私はこの脚本を書いている時に、ジワン役に誰が良いか、悩みました。ただ、キム・ユンソク監督が『未成年』を観た時の、イ・ジョンウンさんの演技が登場シーンは少なかったですが、とても自然で印象的な演技で記憶に残っていて、いつか彼女と作品を作りたいと考えていました。彼女は、その後『パラサイト 半地下の家族』でも、新しい姿を見せてくれました。この作品では、40台後半の女性主人公を考えた時に、今の韓国映画界を見渡すとイ・ジョンウンさんが最適ではないかと考えました。おそらく、彼女もこのような役柄は演じたことがないと思います。脚本を送ってみたところ、何日も経たないうちに、関心があるという答えをいただきました。イ・ジョンウンさんにとっても、初主演ということもあり、プレッシャー(pressure)もあったと思います。現場では、私とコミュニケーション(communication)をかなり密にしながら、撮影しました。私以上に役柄を考えてくれていたと思います。彼女は独特の演技ができる方で、私が脚本以上に魅力的な演技をしてくれました。彼女は体を使った演技が素晴らしい、天性の才能を持っていると思うのですが、仕草も多彩で、表情もコミカルな演技など素晴らしい。また、静的な物語にも合う俳優であると、撮影と通して感じました。現場では、私に友人ように接してくださり、たくさんの会話をしながら撮影ができました。

Q(一般):息子役のタン・ジュンサンの演技については、どのように感じられましたか。
A(監督):タン・ジュンサンさんは、まだ10代の俳優ですが、最近注目をしていました。さまざまな作品で、印象的な演技をされている。最近では「愛の不時着」や「ムーブ・トゥ・ヘブン: 私は遺品整理士です」にも出演されていて、境界線のない俳優さん。何色にも染まっていない俳優という印象でした。今回の撮影は、20日間ぐらいしか期間が取れず、あまり余裕のない現場でした。彼の出演は、4日間ぐらいでした。彼は長い時間待たないといけませんし、たくさんのテイク(take)を重ねることができず、申し訳ないと感じていましたが、タイト(tight)な撮影現場の中でも、しっかりと自分の立ち位置を捉え、見失わず、取り組んでいただけました。まったく物おじせずに演技をしてくれる俳優です。映画の中で上半身を脱ぐシーンがあり、少し悩んでおられましたが、最終的に挑戦されました。そんな風に勇敢なところもありますし、見どころのたくさんある俳優だと感じました。こちらがディレクションするとそれ以上の演技をみせてくれるので、若いということを感じさせない俳優です。「ムーブ・トゥ・ヘブン: 私は遺品整理士です」などは、長い作品なのですが、主人公としてドラマを引っ張っていくような、そんな部分もみえますし、これからの活躍が嘱望される俳優だと感じます。そして、イ・ジョンウンさんとは、彼が子役の時に共演したことがあるそうで、お二人は仲が良かったです。現場でも、本当の親子みたいにみえて、驚かされました。ちなみに、タン・ジュンサンさんは、元々ミュージカル俳優出身ということもありダンスもうまいですよ。

A(監督):(観客のみなさまへ)皆さんと映画館でお会いしたいと思っていましたが、コロナ禍で行けず、残念に思っています。今日は、わざわざ足を運んで観ていただき、ありがとうございました。作品の中で、プロデューサーのセリフに「私たちはこれからも生きていく、生かされるという」が、今、私たちは辛い、苦しい時間を過ごしていますが、人生ただ生かされるのではなく、一生懸命生きていければと思っています。皆さんもがんばってください。

オマージュ場面1

3重構造

この作品は、3人の女性映画監督の物語。仕事に行き詰った女性映画監督のジワン。ジワンが依頼を受けて、修復する作品『女判事』のホン・ウノン監督。そして、この映画を創ったシン・スウォン監督。それぞれの時代で、女性監督の置かれた環境は変化し、悩みも異なる。また、10年後、20年後の女性監督がこの作品を観た時、どんな感想を持ち、インスピレーションを受けるのか。そういう意味では、この作品は、長い女性監督の歴史の中間地点に楔を打った作品とも言えよう。

オマージュ場面2

フィルム映画を振り返る

過去作品の復元・保存は、映画の歴史を保存する意味から、近年、精力的に進められている。この作品でも、主人公のジワンがその作業を進めるのだが、実際の復元は、倉庫に残るフィルムを手作業で繋ぎ合わせるというアナログな形。デジタルリマスター化が進んでいる進んでいる現代からすると、歴史を感じさせる。しかし、作中でも登場し、上映後のQ&Aで監督もコメントしていますが、帽子の鍔に使われるとは、想像も出来ない再利用だが、もしかして、日本映画のフィルムが帽子の中に隠されているのだろうか。

オマージュ場面3

韓国のインディペンデント

シン・スウォン監督は、『ガラスの庭園』のようなメジャー寄りの作品も製作する一方で、本作や前作『若者の光』など、メジャー作品では採用されづらいテーマをインディペンデントで製作する、インディペンデント色が強いというか、作家性の強いクリエイターである。この作品は、東京国際映画祭のコンペティションを皮切りに、海外の映画祭で紹介されることになるだろうが、韓国のインディペンデント作品を観るのは、映画祭ぐらいしか、現状、機会が限られるので、細かくチェックして、逃さずに追いかけていきたい。

全体として

この作品は、社会問題扱う重さを感じさせないが、実は、女性映画監督の現代・過去の姿を描く、社会的な意味を内包する作品。映像の明るさ、カット割りのテンポの良さで、エンターテイメント的な展開をみせつつも、主婦と母と映画監督を両立する女性を描いている、角度を持った作品。東京国際映画祭では、賞を受けることはなかったが、観客の評価はかなり高い作品で、編集部もこの作品が作品賞か監督賞を受賞すると感じていた。

『オマージュ』東京国際映画祭作品紹介ページ
https://2021.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3401CMP07

『オマージュ』Hommage(IMDB)
https://www.imdb.com/title/tt15620810/

第33回 東京国際映画祭 特集ページ
映画情報「Life with movies」

https://www.lifewithmovies.com/2021/11/34sttiff.html

(Life with movies 編集部:藤井幹也

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