『チェリー・レイン7番地』No.7 Cherry Lane 繼園臺七號【感想・レビュー】

2019年10月31日木曜日

review 東京国際映画祭

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第32回 東京国際映画祭 ワールド・フォーカス部門
第76回 ベネチア国際映画祭 脚本賞受賞

スタッフ staff

監督・脚本:ヨン・ファン Yonfan 楊凡

出演 Cast

シルヴィア・チャン Sylvia Chang:ユー夫人 Mrs. Mei
ヴィッキー・チャオ Wei Zhao:メイリン Meiling
アレックス・ラム:ジーミン
メイ夫人:ケリー・ヤオ

あらすじ

香港大学に通うジーミンは、台湾からの移住者であるユー夫人とその娘メイリンに特別な感情を抱いてしまう。それぞれと異なる映画を観に行き、大画面に魅せられているうちに禁じられた情熱が露わになっていく。時は1967年、香港は対英デモに揺れる激動の時代を迎えていた…。(第32回東京国際映画祭公式プログラムより)

10月30日(水曜)上映後Q&Aより

ヨン・ファン監督(以下、監督)
聞き手:矢田部吉彦プログラミング・ディレクター「コンペティション」担当

Q(矢田部):どのくらい自伝的な部分が反映されているのでしょうか?また、なぜ、アニメーションで製作しようと考えたのでしょうか?
A(監督):1967年、香港では、反政府デモがあり、当時自身は20歳でした。この作品は半自伝的な作品ですが、主人公にだけというわけではなく、他の登場人物にも自分を投影しています。そういう意味では、ある種スリラー的な要素もあると言えるでしょう。1967年は、私にとっても大切な年でした。64年に台湾から香港へ渡りました。台湾には厳戒令が敷かれていましたが、香港には自由な雰囲気がありました。あの頃から、随分、時代がが経ちましたが、あの時代を描きたいと考えていました。ただ、この作品の制作には、7年かかりましたね。
私は、映画を観る以前に絵画をよく見ていました。今回は「動く絵」を作りたいと考えていました。私自身は、あまりアニメーションファンというわけではないので、多くの作品は観ていませんので、今回は、大きな挑戦でした。アニメファンの皆さんにとっては、少し見慣れない作品になっていると思うし、アートハウス系の作品を観る方は、あまりアニメーション作品は観られないのではないでしょうか。私は、今までに経験したことのない、新しいことにチャレンジするが好きです。
私は、写真より絵画の方が、想像力を掻き立てられますし、タイムレスになると考えています。今回は、(アニメーションが)私がイメージするストーリーを伝える最適な手段だと考えました。悲しみや孤独を表現していますが、他の私の作品と違って、ハッピーエンドになっている作品でもあります。

以下、観客からの質問
:多くのカットでキャラクターの動きがスローに描かれていますが、なぜでしょうか。また、1年後、ユー夫人が台湾に戻る社会的な背景はなんだったのでしょうか。

A(監督):ゆったりとしたペースもありますが、ゆったりとした映画だとは考えていません。アベンジャーズのような作品とは異なります。セリフをきちんと聞いて欲しいと考えていましたし、絵画や造形物なども作中に登場させていますので。モンタージュにもこだわって、製作しています。(映画において)無駄なシーンは一切ないと考えています。時代性も、動きに関係しています。当時の人々は、ゆったりとしていましたし、エレガントでした。お茶を入れる所作なんかもね。技術的な面でいうと、映画は24コマが普通ですが、アニメーションによっては、12コマの作品もありますね。この作品では24コマ、12コマ、7コマの部分があります。劇中劇のシーンは7コマですね。また、インドネシアの影絵の手法も使っています。今回、アニメーションを製作するのは、初体験でしたから、普通ではしないようなことにも、取り組んています。

:この作品では、キャラクターを3Dで描いてから、2Dで描き直しをするということをされているとお聞きしましたが、なぜ、そのようなことをされたのでしょうか。

A(監督):実は、3Dがあまり好きではないのです。キャラクターが似てしまうでしょう。2Dの方が、繊細な絵が表現できると考えいます。3Dはハリウッド的なイメージで、(それほど想像力を必要としない)ですが。2Dは想像力を掻き立ててくれます。この作品には、目を瞬きする部分などとても繊細な動きがありますが、それを表現するのは作業はとても繊細なもので、3Dでキャラクタを作り上げた上で、2Dで描き直しています。日本は、アニメーションに関しては、世界最高の国です。その日本で上映されることには謙虚な気分になりますし、日本のファンの皆様にこの作品が受け入れてもらえると嬉しいです。

日本のアニメーションとは異なるアプローチが海外のトレンドなのか。

この作品に先駆けて、『ディリリとパリの時間旅行』『ロングウェイノース 地球のてっぺん』と偶然にも海外のアニメーションが多く上陸しており、『ロングウェイノース 地球のてっぺん』は9月6日に上映開始してから、そのクリエイティブの高さから、口コミから話題を集め、数か月のロングランヒットとなっている。それらの作品とこの作品の共通点として、キャラクターに重きを置く現代日本のアニメーションの多くの作品とは異なり、あくまでもスクリーンを1枚のキャンバスに見立てたような、絵画的な表現がある。『ディリリとパリの時間旅行』は、2Dのキャラクターと写真を融合した独特の世界を表現し、『ロングウェイノース 地球のてっぺん』は、本作品と同様に絵画が動いているような作品となっている。これは、日本は、アニメーション大国であり、過去の作品の積み重ねや変遷がある中で、現在の形が主流となっているが、他の国では、別の変遷をたどることで、表現の方向性に別の特徴が出来ているということかもしれない。

時間を動きで表現する

監督もQ&Aの中で答えているが、この作品は意図的にゆっくりとした動きが演出されている。これは、観客が想像する時間や描いた芸術に没入する時間を提供している。また、現代とは違う時代に生きる人々の特徴を表現している。これは、過剰なセリフを省略し、引き算で作られる実写映画作品にも共通する演出とも捉えられるが、日本のアニメーション作品で、今、この手法を採用することはとても挑戦的なことで、難しいことであるだろうから、この作品を観られることは、日本アニメーションの制作陣にとっても、ファンにとっても、良い体験となるのではないだろうか。

声優陣も実は豪華

この作品の声は、ヴィッキー・チャオやダニエル・ウー、シルヴィア・チャンなど豪華俳優陣が演じているので、日本公開される際には、字幕版での鑑賞も逃さないようにしたい。

作品全体として

編集部は、日本のTVアニメも劇場用アニメも多く観ているが、そんな中でも、かなり特徴的な作品で、刺激的な作品となっている。アニメーションにも多様性は必要で、日本アニメ業界が量産する作品に辟易したファンにとっても良い体験となるだろう。

『チェリー・レイン7番地』東京国際映画祭作品紹介ページ
https://2019.tiff-jp.net/ja/lineup/film/32WFC12

『チェリー・レイン7番地』No.7 Cherry Lane(IMDB)
https://www.imdb.com/title/tt10687168/

第32回 東京国際映画祭 特集ページ
https://www.lifewithmovies.com/2019/10/tokyo-international-film-Festival.html

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