『ボーダー 二つの世界』Grans【感想・レビュー】

2019年10月19日土曜日

review

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スタッフ staff

監督・脚本:アリ・アッバシ Ali Abbasi
原作・脚本:ヨン・アイビデ・リンドクビスト John Ajvide Lindqvist
脚本:イサベラ・エクルーフ Isabella Eklof

出演 Cast

エバ・メランデル Eva Melander:ティーナ Tina
エーロ・ミロノフ Eero Milonoff:ヴォーレ Vore

あらすじ

スウェーデンの税関に勤めるティーナは、違法な物を持ち込む人間を嗅ぎ分ける能力を持っていたが、生まれつきの醜い容姿に悩まされ、孤独な人生を送っていた。
ある日、彼女は勤務中に怪しい旅行者ヴォーレと出会うが、特に証拠が出ず入国審査をパスする。ヴォーレを見て本能的に何かを感じたティーナは、後日、彼を自宅に招き、離れを宿泊先として提供する。次第にヴォーレに惹かれていくティーナ。しかし、彼にはティーナの出生にも関わる大きな秘密があった――。(公式HPより)

原作者 ヨン・アイビデ・リンドクビスト

原作の世界観、物語、イメージが強烈に作品性に影響を与えるこの作品。原作者のヨン・アイビデ・リンドクビストは、スウェーデンの作家で、『ぼくのエリ 200歳の少女』の原作でもある小説『Let the Right One In』を書いたと聞くと、納得かもしれない。今回は、アリ・アッバシ監督とタッグを組むと共に、前作同様、脚本陣にも参加している。
この作品を理解する上で、前作を観ておくと、より作品世界へ入りやすくなると思われるので、『ぼくのエリ 200歳の少女』か、もしくは同作のリメイク作品『モールス』を観ることをお勧めします。傑作です。

幻想文学の世界

この作品は、ジャンル映画として、ファンタジー作品と呼ぶと、少し違和感がある。それは、近年、ファンタジーという言葉が多くのエンターテイメント作品やゲームタイトルで使用される中で、表層的で軽い印象を持ってしまっているせいだろう。
この作品の持つ印象としては、日本では「幻想文学」と言われる系譜にあるように感じる。日本では、1982年から2003年まで、季刊「幻想文学」という雑誌が発行され、北欧神話やギリシャ神話、ラブクラフト作品など「幻想文学」の系譜に繋がる古典や事象が取り上げられていた(筆者も、とても毎号楽しみに読んでいた)が、その独特の作品群の持つ「匂い」のようなものに、この作品の持つ雰囲気は近い。トールキンの『指輪物語』は重厚で、神話や伝承から構築された奥行のある作品であり、この作品に近いが、映画化された『ロード・オブ・リング』シリーズは、大衆向けにエンターテイメント性を意識した表現にしているため、少し表層的になっていた。ちょうど、幻想文学という言葉とファンタジーという言葉の距離感は、それに近しい。

主人公の秘密

主人公のティーナの醜い容姿や出生の秘密が、この物語の中盤から大きく意味を持つが、『ぼくのエリ 200歳の少女』の印象でこの観ていると、少し衝撃が強いかもしれない。『シェイプ・オブ・ウォーター』のギレルモ・デル・トロ監督や、筆者のように、ある意味マニアックな「幻想文学」を楽しむものにとっては、なるほど、と感じるシーンであっても、そういう作品であるという覚悟なく観ると、ある種の嫌悪感や作品から心が離れてしまうかもしれない。

普遍的なテーマが背景に

社会や物事の善悪や「ボーダー」を描いているこの作品だが、それは、人種や思想信条、価値観の違う人々が混じり合う現代社会においての普遍的なテーマである。主人公の幻想世界と、人間社会としての現代社会が入交差する部分もまた、ある意味での「ボーダー」と表現している。

作品全体として

とても作品の特殊性が強く、ジャンル映画としては最高に突き抜けているが、そういう作品に馴染みのない映画ファンにとっては、理解するまでには、深い森の霧を抜けていく必要があるかもしれない。この作品を観て、少し理解が及ばない場合は、西欧の幻想文学の系譜に繋がる小説などを読み、また、この作品に戻ってくると、より楽しみが増えるに違いない。少し身近になったエルフやホビットの世界の深さを、この作品で感じて欲しい。そんな各品。おススメ作品。

『ボーダー 二つの世界』公式サイト
http://border-movie.jp/

『ボーダー 二つの世界』Grans IMDB
https://www.imdb.com/title/tt5501104/

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