Life with movies 『社会の片隅で』Les Invisibles【感想・レビュー】
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『社会の片隅で』Les Invisibles【感想・レビュー】

『社会の片隅で』Les Invisibles【感想・レビュー】

(C)2018 - Apollo Films

スタッフ

監督・脚本:ルイ=ジュリアン・プティ Louis-Julien Petit

出演 Cast

オドレイ・ラミー Audrey Lamy:Audrey Scapio
コリンヌ・マシエロ Corinne Masiero:Manu
ノエミ・ルヴォヴスキ Noemie Lvovsky:Helene
デボラ・ルクムエナ Deborah Lukumuena:Angelique

作品解説

行政の決定により、ホームレスシェルターが閉じることになった。閉鎖までの3ヵ月、ソーシャルワーカー達はあらゆる手を使って、入居者達を社会に出そうと奮闘する。社会の片隅で、もがきながら生きる女性たちを描く。(フランス映画祭公式HPより)

2019年6月22日(土曜)上映後Q&Aより(ネタバレ含みます)


ルイ=ジュリアン・プティ監督(以下、監督)
聞き手:矢田部吉彦 東京国際映画祭プログラミング・ディレクター

(監督):日本に来るのは、初めて。作品のラストシーンを観客の方と一緒に観て、感動を共にするのが好きです。様々な国の方へ映画を届けられて、嬉しい。

Q(矢田部):女性のホームレスの問題に関心をもったきっかけはなんでしょうか。
A(監督):クレア・ラジュニー氏のドキュメンタリーが元になっています。彼女は、6か月間、女性ホームレス達と一緒にいた体験を持っていて、ただ、この映像を観ると、きっと笑顔になるよ、と言われました。

以下、観客からの質問

:女性をテーマに撮影する際に、男性監督として苦労されたことはありますか。
A(監督):私は、疑問に感じたことはありません。この作品で描いた方は、ホームレスであるということと、女性であることから、2重の苦しみを抱えています。つまり、ホームレスとしての生活と女性として外部からの攻撃から自身を守らないといけないということです。日本には「ホームレス」に変わる「日本語」がないとも聞いています。日本でもホームレスの方がおられ、それを示す言葉がないのは、まるで問題がないかのように感じます。この作品で、ホームレスを演じているのは、ホームレス体験者の方々です。実際に、ホームレスの方の生活に目を向ける機会は少ないと思います。それを、コメディという形へ落とし込み、(皆さんに届けるのが)私の仕事だと考えています。

Q(矢田部):ホームレス役の皆さんは、本当に演技経験がないのですか。どのように探したのでしょうか。
A(監督):キャスト(ホームレス経験者の方)に300人ほど集まっていただき、最初にオーディションで100名程に絞りました。そして、その100人に舞台のアトリエを体験してもらいました。その中で、作品と同じように仮の名前で演技の練習をしてもらい、50人、15人と絞り込んでいきました。出演者のひとり、シャンタルが自分の隣に座って、自分の人生を写真をみせながら説明してくれました。とてもショックでした。そして、彼女はとても素晴らしい演技をしてくれた。

:とても魅力的なキャストでした。経験豊かな女優とホームレス経験者のキャストとのセリフのやり取りがとても自然でしたが、何か工夫をされたのでしょうか。
A(監督):ジル・ルルーシュ監督が以前に「もし、セリフがないように感じたのなら(用意されたものと感じないのなら)、より本質に近づいている」とコメントされていましたが、私もそう思います。そういう意味で、先ほどの質問は、最高の言葉です。撮影に関するレシピを明かすことはできませんが、感動を共有して撮影していました。撮影時は、NGを出さず、ワンテイクで撮影しています。

:(質問者された方は)ソーシャルワーカーを目指していますが、監督がこの作品で伝えたかったメッセージはありますか。
A(監督):ソーシャルワーカーは、あまり職業にスポットが当たらないし、援助も少ない。人生においては、離婚や失業など誰でもアクシデントが起こり、また、立ち向かっていかないといけないが、もし孤独であったなら、彼らが力になってくれます。ラストシーンのマットの上を歩いていくシーンが象徴的ですが、彼女たちは勇気を持って、歩いています。

Q(矢田部):フランスでは、この作品は大成功されたとお聞きしていますが、どのような反響がありましたか。
A(監督):成功のレシピがあれば、教えて欲しい(笑)。この作品では、ユーモア、愛、人間性の3つのテーマを心に撮影しました。今、フランスでは6人に1人が貧困だと言われています。フランスといえば、素敵なイメージがあると思いますが、厳しい現実もあるのです。

:演技経験のない方ゆえのリアリティを感じされましたが、撮影での苦労したエピソードなどありますか。
A(監督):シャンタルが前半、ソーシャルワーカーへ噛みつくシーンがありますが、この時、彼女は本物のソーシャルワーカーだと思っていました。そこまで、創り込む必要がありました。シャンタルがきちんと立つように言われ、言い返している時は、リアルな言葉です。撮影ではさまざまなことがありましたが、シャンタルは特に心に残っています。作品中に、自身を表現することをワーキングしているシーンがありますが、心の中にあることを、何でもいいので言って欲しいと言ったら、みんな話してくれました。そして、現場では、みんな涙を流し、感動し打ち解けていた。撮影は時系列で行ったのですが、この時のことは特に覚えていて、そのあとはさらに現場が団結し、良い撮影に繋がりました。出演者、スタッフともに信頼関係が出来上がったので、上手くいったと考えています。撮影においては、信頼関係はとても大切なのです。

ドキュメンタリーとのはざまで

この作品を観ると、リアリティとは何なのか、ということを頭をよぎる。クリント・イーストウッド監督『15時17分、パリ行き』では、実際の事件の当事者が物語の登場人物として、自分自身を演じている。『アメリカン・アニマルズ』では、事件の加害者や被害者のコメントが作品と融合している。それらに対して、この作品では登場人物の人生そのものが物語に融合しているのに、ドラマになっていて、境界線がどこなのかがわからなくなっている。その圧倒的なリアリティの説得力がこの物語の魅力であり、スクリーンから溢れてくる力になっている。

フランスでは大成功

日本では、社会的な背景を色濃く表現した作品が興行的に大成功したという話をあまり聞きません。これは、映画に対して、日本の観客が求めているものが異なっているということでもあるし、製作会社が踏み込む余裕も考えもあまりないのだろうとも感じる。ゆえに、この作品を観た時、日本映画ではあまり得られないような感動を覚え、認識を新たにする。

作品全体として

登場人物がスクリーンの中で、見事なぐらい「生きて」いる。この作品を観て、ホームレスの問題について、考えてみようなどという説教臭いことはいらない。ただ、作品の中で葛藤し、活躍する彼女たちを観ることで、感じるものは、必ずある。そんな説得力のある作品。おススメ。

フランス映画祭2019 in横浜
『社会の片隅で』紹介ページ
http://www.unifrance.jp/festival/2019/films/1165/

『社会の片隅で』Les Invisibles IMDB
https://www.imdb.com/title/tt8633950/

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