『ヒストリー・レッスン』History Lessons【感想・レビュー】

2018年11月1日木曜日

映画祭 外国語映画 東京国際映画祭

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『ヒストリー・レッスン』History Lessons【感想・レビュー】


第31回 東京国際映画祭 コンペティション部門

スタッフ

監督:マルセリーノ ・イスラス・エルナンデス Marcelino Islas Hernandez

キャスト

ベロニカ・ランガー Veronica Langer:Vero
レナータ・ヴァカ Renata Vaca:Eva
フェルナンド・アルバレス・レべール Fernando Alvarez Rebeil:Manuel

あらすじ

中学校の歴史教師ヴェロは60歳で、引退を考えている。しかし反抗的な転入生エヴァと出会い、彼女の運命は変化していく。エヴァはヴェロの生活に侵入するようになり、やがてふたりの間に奇妙な友情が芽生え、互いの人生に影響を与え合っていく。(第31回東京国際映画祭公式HPより)

10月31日(水曜)PI上映後Q&Aより(ネタバレ含みます)

マルセリーノ ・イスラス・エルナンデス 監督(以下、監督)
ベロニカ・ランガー(以下、ランガー)
アンドレア・トカ プロデューサー(以下、トカ)
ダニエラ・レイヴァ・ベセラ・アコスタ プロデューサー(以下、アコスタ)
聞き手:笠井信輔

Q(笠井):この作品に、どのような想いを込めたのか。
A(監督):自身3本目の作品。心を込めて作品を描くことは、心に痛みを伴うこともある。この作品は、ラブレターを書くような気持ちで製作した。

Q(笠井):(ランガーへ)魅力的な役柄のヴェロですが、どのように演じたか。
A(ランガー):脚本を読んだ時から、彼女の魅力はわかっていたし、彼女の歩く軌跡が素敵だった。詩が差し迫っていることを理解しつつ、最大限に生きていく。劇中の旅は、人生の旅に繋がり、残された日々を濃密に生きる。過去は、ある意味、出来上がってしまい変化のない人生だが、残された人生は、全力で生きている。

Q(笠井):(トカへ)メキシコの人は、この作品をどのように受け止めるのか。
A(トカ):メキシコ人の死生観は、他の国とは異なり、人生の一部と考えている。必ず迎えるのなら、最大限に生きていこうということ。

Q(笠井):(アコスタへ)エヴァ役のレナータ・ヴァカは、新人と聞いたが、キャスティングした経過を教えてください。
A(アコスタ):彼女は、この作品が映画初出演。普段はYoutuberで、監督が演技指導をした。ベロニカ・ランガーとの相性は良く、上手く機能した。

Q(笠井):(ランガーへ)Youtuberとの共演に不安はなかったですか。
A(ランガー):彼女に会うまで、存在を知らなった。リハーサルを繰り返す中で、素晴らしい関係が築けたと思う。

Q(笠井):監督は、この二人の相性をどのように観ていたのか。
A(監督):いい関係が作り上げられたと思う。製作には、2年以上かかり、リハーサルも何度も繰り返した。特にダンスシーンがイメージどおりにならず、苦労したが、エヴァがヴェロを導く形でうまくいった。

Q(笠井):(トカへ)ヴァカは、撮影中もYoutuberとして、配信していたのか。
A(トカ):撮影中もupしていた。ラストシーンのロケ地では、ネットが繋がらず、フォロワーを気にしていた。

以下、記者からの質問
:メキシコ映画は、クライム映画やバイオレンス映画が多く配給されている印象がある。メキシコは男性上位の社会構造が残っていると考えているが、女性主人公にした意図は。また、女性の姿を丁寧に描かれているが、その背景は。
A(監督):海外配給される作品は、バイオレンス映画が多い。今回は、より自分に近いテーマで、また、普遍的なテーマの作品を撮りたいと考えていた。実は、私は小津安二郎のファンで、彼のように人生を撮りたいと考えている。また、女性を描くのは、好きだ。なぜなら、小さい頃、女系家族に育った環境が影響している。

Q(笠井):(ランガーへ)劇中の夫は、かなりだらしないが、現代メキシコの夫像とし典型的なのか。
A(ランガー):確かにそうだが、それは世界共通なのでは?現代では、コミュニケーションが減り、孤立化が進んでいる。そんな中で、彼女は、残りの人生を家の外へ求めていく。

:後半のロードムービー部分は圧巻だったが、2人が仲良くなるためのキーアイテムとして、たばことコーラが登場する。これらは、口にするアイテムだが、その意図は。
A(監督):ロードムービー部分は、自身の祖母が住んでいる地域。ラストシーンに悩んでいる時、映画の師に相談したら、自身のルーツを辿ってみたらどうかと助言があり、今回の形となった。たばこは、映画的なアイテムだと考えていて、前作でも活用している。たばこの作り出す映画的な雰囲気が好きだ。コーラは、自分が好き。たばことコーラは、2人の絆を繋ぐアイテムであり、ヴェロの病に気づく鍵でもある。
A(ランガー):たばこの撮影は、何テイクも撮影したので大変だった。たばことコーラは、観客に対して、「タブー」であり「超えていくもの」を示唆する要素になっている。

人生の転機は、いつでも起こりうる

この作品では、60歳での退職と病気から残りの人生を変えていく物語。生と死をテーマとしているが、この物語の伝える意味は、引退を迎える高齢者だけが対象ではない。社会的にタブーとされるものが、個としてタブーであるとは限らず、それを乗り越えるタイミングは、20代でも起こりうる、というか、起こっている。例えば、結婚しない独身者の増加など明治期ならば、社会から批判されていただろうし、離婚、不倫だってそうだ。しかし、時代が変わり、現代では一般的となっている。これは、タブーを定義していた社会という形のないものが変化しただけで、個として何も変わっていない。そういう意味では、この物語の響きは、多くの観客が共感しうるものだろう。

不思議なバディ

主人公ヴェロと教え子のエヴァの関係がみせる不思議な空気感が独特だ。社会的には、教師と生徒で師弟関係となるが、交流が深まるにつれ、上下関係ではない、並列の関係に変化していく。死の影が見えている主人公にとって、社会の求める常識などというものは意味をなさない。そこには、肩書など関係のない、個と個の関係しかない。

作品全体として

常識という怪物に囚われている現代社会において、この物語は眩しい光を放っている。そんな社会の閉塞感に苛まれている人にとって、この物語は、一服の清涼剤になるだろう。
私もまた、そのひとりであり、あなたもそうかもしれない。そう感じた時に、この物語を観てみよう。

『ヒストリー・レッスン』東京国際映画祭作品紹介ページ
https://2018.tiff-jp.net/ja/lineup/film/31CMP08

『ヒストリー・レッスン』History Lessons(IMDB)
https://www.imdb.com/title/tt6303018/

特集 第31回 東京国際映画祭 31st Tokyo International Film Festival
https://www.lifewithmovies.com/2018/10/tokyo-international-film-Festival.html

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